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オーシャンリパブリック構想 (海洋都市国家構想)

はじめに  

この内容は雑誌「船の科学」Vol.45、1992年3月号(株式会社 船舶技術協会発行)に投稿し、掲載されたものを元に編集してあります。

背景   

今、地球上はいろいろな問題が山積されています。その中でも深刻なのは環境破壊と人口増大、それによる食糧不足でしょうか。

船の科学VOL.45 NO.3 1992

 

人間は地球が無限の存在と思っていままで生活してきたし、また無機的な存在と思ってきたのですが実は非常にデリケートで人間と同じく「生きている」ということに最近ようやく気づいたと言えます。

私は21世紀に起こるであろう問題の中で特に人口問題と食糧問題が大きなものであると思います。人口が爆発的に増えれば、住む場所さえもなくなってくるのではないでしょうか。またスペースの不足は人間の死後にまでつきまとい、墓地の用地を確保することも多くの国では問題となりつつあります。

人間は過去悠久の歴史を通して大地を中心として生活を行なってきました。しかしその大地はもはや限界にきているとも思えます。

暫く「物理歴史」という観点でものごとを考えてみたいと思います。

物質は固体・液体・気体というその性質上三態といわれる状態をとります。人間のいままでの歴史を振り替えると、このうちの固体にあたるのではと思います。人間は土地を土台として生活をしてきましたが、同時にその土地の上で人間同志が相争い、民族間でまた先住民族、流入民族の間の数限りない闘争の上に今日の世界地図ができあがったと言えます。

固体は温度を高めると液体・気体とその性質を変化させてゆきますが、遠い将来は確かに「気体時代」とも言える宇宙時代が到来するでしょう。でも、多くの人たちが宇宙に出ていって生活するまでには、まだ多くの時間がかかるのではないでしょうか。

人類の歴史に土地を媒介として生活してきた過去の「固体時代」と、将来宇宙空間に住むであろう「気体時代」があるならばその間に海洋スペースに人類が住むであろう「液体時代」あってもよいのではないでしょうか。
 
よく母なる海といわれますように、まだまだ海には宇宙と同じ位に未知の部分があります。私はもっと海のスペースを利用するべきではないかと思っています。そのような背景でこのオーシャンリパブリック構想を持つようになりました。

機能

ではオーシャンリパブリック構想を説明します。これはセーリングヨットが巨大になったと思っていただければ理解が容易だと思います。この人工島は小さなものは長さ数百メートルの大型タンカー位のものから、大きなものは長さ数キロメートルの長さのものまでいろいろあります。ここでは、少し大きな長さ10キロ程度のものを中心に図などが描いてあります。構造物は人工的につくられた大地を円筒状の複数のフロート(浮体)で支えます。これは鉄鋼構造物になるでしょう。この人工島を私は便宜上VLSI(Very
Large Sailing Island)と呼んでいます。そしてこの人工大地の上に複数の円柱状の建築物(高層ビル)を建てます。これは後で説明しますが重要な意味があります。そして、この人工大地の上には住居や工場・大学・ オフィスビル・商業施設・発電所・空港・港・農耕地などをつくります。すなわちこの人工島で一つの小さな国家の機能を備えているわけです。こういった人工島を太平洋・大西洋など海流が周回する部分にいくつか浮かせます。動力はとくにありません。この人工島VLSIを動かすのは海流(潮流)と、風、コリオリ力(Coriolis
Force)です。海流は太平洋・大西洋などでは北半球

では右巻きに南半球では左巻きに巻いています。この海流によってぐるぐると同じところを周ります。

動力

でも、海流だけでは暗礁があったりした場合に避けられませんし、また台風などを避けることもできません。それに風にまかせて漂いコントロールすることができません。そこで、ヨットのように風を利用して、コントロールすることを考えます。そのためにはヨットのように人工島(VLSI)の上に大きな帆をつければいいのですが、このような帆をコントロールするのは難しいでしょう。でも既に小型タンカーなどはコンピュータでコントロールされた帆を持つものもあります。私の考えている人工島(VLSI)はこの帆の代わりに人工島(VLSI)の上につくられた円柱状の高層ビルを利用しようと いうものです。この高層ビルをどのように利用し、風の力を推進力に変えるか、それが大きな問題です。風の力を推進力に変えるものにセイル(帆)がありますが、高層ビルを帆のような形にしてこれを動かしてもいいのですが、簡単にあやつることは難しいと思います。そこで、マグナス効果という物理現象を利用します。マグナス効果についてはよく野球のピッチャーが変化球を投げる時の重要な原理として紹介されています。丸い物体(必ずしも円くなくともよいが)を流体中で回転させると、流体の進
行方向直角に揚力が生じます。この力を利用するわけです。ただし、高層ビルをいくら円柱のように建てたからといって、この高層ビルをぐるぐる回すことはまたさらに、不可能に近いでしょう。そこで、高層ビル自体を回す代わりに、高層ビルの外壁だけをまわしたり、また、外壁にたくさんの空気吹き出し口を作っておき、ここから空気を建物の周り方向に吹き出させ、建物の周りの回転流をつくることによって同一の効果を引き出そうと考えています。実際には人工島(VLSI)の上に複数の高層ビルをたて、それをすべて コンピュータでコントロールすることによって、人工島が陸地や島や暗礁に接することなく、また台風などを避けながら航行できるようにしてやる必要があります。いずれにしても建築物に生じる揚力によるコントロールは補助的なものになるだろうと思われます。

建造方法  

どうやってつくるか、大きな問題です。理屈としては通じても人工島を作るだけの技術の壁を克服できる力が果たして今の人間にあるでしょうか。?はなはだ疑問です。例えば長さ10Km幅5Kmの人工島をつくろうとすると、現在建造可能なタンカーの一万倍近くの物量が必要になります。地球全体の鉄鋼生産量をもってしても可能だろうかという話になります。でもこれは夢なのです。将来は多分できるだろう、できるようになるだろうという希望的観測の上に話をすすめてゆきます。例えばこのような構造物をつくるのに次のような方法や技術が開発されないだろうかと思っています。

1. カルシウム構造体(人工珊瑚のようなもの。バイオテクノロジーを応用し触媒(徴生物)とカルシウムイオンによって満たされた海水の中でカルシウムの骨格(補強材)を急速に成長させる。)

2. 氷構造物による方法(大きな氷の塊を断熱材と冷凍器で覆い,構造体を構成する。〕

3. 火山工学の利用(軽石による構造体)

4. 新材料の開発

・発泡スチールの開発(気泡の入った鉄鋼材料)

・発泡コンクリートの開発(気泡の入ったコンクリート。現在使用されているものを発展させる)

実際には新技術とこれらの複合技術によって建造するということになるでしょう。

人工島(VLSI)の利用方法  

ではこの人工島はどのような利用方法があるでしょうか。少し思い付くままに書いてみます。

1. 居住地(一つのVLSlにつき数万人~最大~千万人程度が住む)

2. 農耕地

3. 人工漁場、水産加工・養殖施設

4. 海からの鉱物資源採取施設(メタンハイドレード,ウラニウム,マンガン,ETC) 5. 水素製造工場

6. 各種生産工場

7. 発電所(自給用と化学エネルギー等に蓄積し,大陸向けに輸出する)

8. CO2圧縮処理施設,再利用処理施設

9 . ゴミ,産業廃棄物の処理および再利用処理施設

10. 海の浄化,清掃(海水に酸素を供給し,海を活性化する。流出油の回収)

11. 船舶.航空機の中継基地・宇宙空港(赤道近辺に位置している時のポテンシャルを利用し宇宙往復船を発着させる)

12. 国家,大学,企業の共同研究機関,および超国家機関の施設

13. 巨大レジャー施設

14. 総合共同墓地(洋上散骨場など)

6番の項目で、このVLSI上に生産工場をつくることに関して独特な立地条件のよさがあります。このVLSIは太平洋の上をぐるとまわっていたりするわけですから、アメリカと日本などの国々を行き来しながら相互の原料や製品を運ぶ輸送船としてもの役割や石油や資源の備蓄基地としての機能も持たせることができるわけです。

最後に

 

このVLSIの上に住む人には国籍がありません。あるとすれば海洋共和国「オーシャンリパブリック」の国民となることでしょう。このオーシャンリパブリックはどこかの国が所有するのではなく、国連のような超国家機関によって統治されるべきであると思っています。またそのころには実際には国境というものもなくなっているかも知れません。

過去にもこのような構想はあったようです。SF作家ジュールベルヌもこのような人工島を考えていたようです。ただし、そこには巨大なエンジンがあったようで、風を利用するVLSIとは少し異なるものかと思います。

長さが数百メートル級のものならば今でも建造可能であると思います。でも数キロメートルのものとなると夢になるでしょう。でもこのような夢をもつことが実現の一歩でもあると思います。自分が生まれている間にこのような人工島ができればと思っています。自分の世代でできなければ自分の子供が大きくなるころにはとも思います。夢は大きく。・・・

オーシャンリパブリック構想

Ocean Republic Video

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